chapter3

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「薬も忘れないでちょうだいね」  やっと掃除機をかけ終えた母は、かいていないのに額の汗をぬぐうポーズだ。今度は普段通りのボリュームだったので、翠も「わかった」と声を返す。  翠は毎日昼食後に発情期抑制剤を飲んでいた。一日でも飲まないとその月の発情期は外に出られなくなるので、きっちりと守っている。  寝汗のせいで首に違和感があったので、制汗シートを当てることにした。シャワーは朝方浴びたばかりなのでまだ気分ではない。首輪をつけ、身支度をする。  洗面所の鏡に映った顔はいつもと変わらず落ち着いているが、起きる直前の思考を思い出すと居たたまれない気持ちがむくむくと沸き上がってくる。一度大きな深呼吸をしてどうにか気持ちを落ち着かせた。まだ何かが挟まっている気さえする下腹部のことは、今は閉め出すことにする。  半に出るといったものの、父が楽しみのあまり落ち着かないので、結局は皆の身支度が終わってすぐに出ることになった。  翠は軽自動車の後部座席で母と顔を見合わせてひっそりと笑ったのだった。
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