chapter3-2

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 グレーの毛並みをわしゃわしゃと撫でながら、楽しそうに笑っていたのは狩野だった。普段は見られないだろう上がった口角よりも、柔らかくほどけた目元が印象的で、隣でチワワを抱えた五歳くらいの女の子が口をぽっかり開けて狩野に見とれている。  まさしく無邪気。今の彼はそんな感じだ。もうすっかり怪我の治ったなめらかな頬が、日差しの元で瑞々しい若さを惜しげもなく晒している。  学校での他を拒絶するような雰囲気がない狩野はとても魅力的で、女の子の気持ちもよくわかる。  ふいに、体をくねらせて女の子の手から飛び出したチワワが走り出した。追いかけようとした女の子が、狩野の前でぺしゃりと転ぶ。明るいピンク色のワンピースの裾が風に煽られて、下着が見えそうになった。  青々とした芝生から顔をあげて、女の子はきょろきょろとあたりを見回す。そして、なぜか狩野の顔を見ると火がついたように泣き出した。ここからでもエーンとかアーンとかいう声が聞こえてきそうだ。  驚きのあまり狩野はすっかり固まって、愛犬のふっさりとした逞しいしっぽに何度も足をたたかれている。  女の子の保護者はどこに行ったのか、駆けつけてくる大人の姿はない。やっと気がついた狩野がどうしていいかわからずに手を伸ばしては引っ込めているが、女の子は大きな瞳から次々に滴を溢れさせるばかりだ。  ――助けてやるか、と翠は足を踏み出した。鞄の中に用意はある。ドッグランに続く重たいガラス戸を押し開けて、近くを走り回っていたチワワをなんとか捕まえた。 「はい、この子をよろしく」 「はっ?」  狩野は突然現れた翠にチワワを差し出されて目をまん丸にした。その顔がずいぶんと幼く見え、翠はつい忍び笑いしてしまう。
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