chapter3-2

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 うつぶせに倒れたままの女の子の脇の下に手を入れ、ひょいっと立たせる。女の子は驚いて余計に泣き出したが、ポケットから取り出した袋入りの飴を目の前にひらつかせると視線をくれた。 「これが見えるかな? 今ここには飴が一個あります」  視線を集めたパッケージが赤いイチゴの飴を、女の子の前で消してみせる。芳に教わったマジックだった。女の子は飛び上がって泣き止むと、翠の手のひらをぺたぺたと触ってきた。 「どこー……?」 「どこかな? お兄ちゃんは持ってないよ」 「どこー!? いなくなっちゃったの!?」 「なんでだろうね、おかしいね。あっ、もしかして、あのお兄ちゃんのところにあるかもしれないよ?」  言いながら狩野を指さすと、持っていないというアピールらしく首をぶんぶん振る。水を振り払う犬のような動きだ。翠は自分の口元がまた笑んでいくのを感じた。  そのまま、興味津々の女の子と一緒に、いつもより眉が下がった狩野に近づく。 「おにいちゃん、あめは?」 「え……」  目を白黒させて、狩野はどうにかしろとばかりに翠に訴えかけてくる。わかってると頷いて、隠していた飴を取り出した。わざとらしく狩野を見て「あっ、あった!」と声を上げた。 「こっちのお兄ちゃんのお耳にありました!」  狩野の耳の後ろから飴を取り出すマイムをすると、女の子は面白がって手を叩いた。もうすっかり泣き止んだようで、飴をあげると輝かんばかりの笑顔でお礼を言ってくれる。 「おにいちゃん、すごーい! まほうつかいみたい!」 「お兄ちゃんじゃなくて、実はこっちのお兄ちゃんが魔法使いなんだ。だから君のわんちゃんも捕まえておいてくれたんだよ」 「あっ、ミミ!」
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