chapter3-2

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 さっきまでの狼狽えようが嘘みたいだが、狩野の頬は少しだけ赤く見えた。翠はあえて触れず、行儀良くお座りする犬をじっと眺める。 「犬飼ってたんだな。名前は?」 「……。……ちー」 「ちーちゃん? ちーくん?」 「……オス」 「ちーくんか。この子凜々しくてかっこいいな」  狩野の愛犬、ちーの毛の体は硬いがふっさりとしていて触り心地が良い。体からシャンプーらしきにおいがして、大切に扱われているのだと想像がついた。  背中は黒も混じったグレーの毛で、腹のあたりは白っぽい。綺麗な毛並みだ。 「俺、犬のこと詳しくないんだけど、この子の犬種は?」 「……ウルフドッグ」 「ウルフって、狼のこと?」  尋ねると狩野はこっくりと頷く。ちーは翠の腹に頭を押しつけてご機嫌のようだ。犬の性格についてはよくわからないが、威嚇もせずに懐かれてしまい不思議に思う。もっと警戒心の強いイメージだったのだが、違うのだろうか。  狩野は翠にべったりなちーを見て訝しげな表情をしながらも、質問の答えを口にした。 「ウルフドッグは狼と犬を交配させて生まれた犬種」 「へえ……」  ちーはしゃがんだ翠の太ももに体重をかけてくる。見上げてくる顔つきが真実狼のようだった。恐る恐る背中に移していた手を頭に変えてみるが、嫌がられないことに安心する。それどころかしっぽを振ってうれしそうだ。  ちーはずいぶんと手足が長く、それに驚くほどまっすぐだ。じっくりと体を眺めながら、翠はかつて学校で習った狼の習性を思い出す。
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