chapter4

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 こういった態度には慣れているし、木崎も生徒がいる前では愛想笑いくらいはするからまだいいのだが、誰かから嫌われているというだけでストレスは溜まるものだ。  残暑が厳しかった9月前半とは裏腹に、秋らしい気配の到来が早い。下旬の今は気温的に過ごしやすい日が多くて体が楽だった。  今日も気温は二十度前半というところで、真夏のむっとした空気がない道場はまだ居心地が良い。蝉も驚きのあまり鳴きやむくらいの大声で部活をするのも趣があるとはいえ、換気扇はあっても冷房のない道場ではせめてこれくらいの気温が良いものだ。  この武道場は授業でも使うのでそれなりの広さがあり、一階は柔道部、二階は剣道部が使用している。  剣道では足運びや試合の際に地面を踏みならすため階下に誰かいると不安になるものだが、ここは相当強固に造られているのでちょっとやそっとではびくともしない。翠の通っていた道場は板間の一部がへこんでいてひやっとしたものだが、それも懐かしい思い出だ。  道場に足を踏み入れる前に部員たちは丁寧に礼をしていく。それが武道家としてのマナーなのだ。翠と木崎はそれぞれ会釈で迎えた。  部員たちは準備運動や防具の確認、組み分けの確認等を流れるように行ってゆく。  木崎と翠が先頭に立って行う素振りで体を温めてから、やっと紅白戦の開始だ。  通常、剣道の団体戦では先鋒・次鋒・中堅・副将・大将の計五人が一つのチームとなる。だが、この紅白戦では各チーム五人以上いるのでそうは分けず、顧問が一年から副将を一人、二年から大将を一人選び、通常の試合を勝ち点一、副将戦を二点、大将戦を三点として合計の勝ち点で勝敗を決める。  翠の担当は白組だ。新しく副部長になった二年生を大将に据え、迷ったものの今までに副将をやったことのない一年生を指名した。副部長は身内にオメガがいるそうで、翠の身の上にも理解があり、部の中では一番関係性が作れているので話しやすい。  対する木崎率いる紅組は新部長を大将に、スーパールーキーの呼び声高い一年を副将にしたようだった。
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