chapter4

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 実際、紅白の実力が同程度というのは建前で、チーム分けは顧問である木崎の権限で行われている。本人はくじで決めたと公言しているが、毎回紅組の上位メンバーが同じというところから、翠も、おそらく一部の部員も信じていない。  これでは部内に余計な確執が広がる恐れがあるものの、木崎は顧問であり、何よりアルファだった。そのせいで仕方がないというムードが流れている。それほどにアルファは影響があるのだ。  公式戦であれば審判の人数や位置取り等規定があるが、ここでは簡単に教員の二人が審判を行う。日常の練習試合では部員にやらせることもあったが、紅白戦の時は集中を促すためにやめている。  部員数は一年、二年合わせて二十四人のため、全部で試合数は十二となる。場合によってはどちらかに白星が偏って逆転が不可能になることもあるが、これは試合形式に慣れる練習でもあるので切り上げることはない。  強豪ということもあって、小、中学からの経験者が部員の多数を占めていた。中には翠が通っていた道場出身という生徒もいる。  やがて試合が始まった。「始め」の合図の後、向かい合った生徒が気合いの声を発する。これは威嚇の意味もあり、腹から声を出すため、道場中に雄叫びが響き渡る。  床を擦る足音と衣擦れが張り詰めた空間を静かに支配する。相手の一挙手一投足を見て動きを読むのだ。面から覗く二年生二人の眼差しは鋭い。  紅組の生徒が小手を打った。しかし、当たりどころから有効ではないと判断して審判旗は揚げない。木崎も同様だった。さすがに試合の時にまで卑怯めいたことはしなかった。  お返しとばかりに白組の生徒が面を狙ったものの、竹刀で弾かれて決まらない。そのまま二人は膠着状態に陥った。  剣道の試合時間は一試合五分で、場合によっては延長が認められる。試合時間内に先に二本先取するか、または有効打突を一本取ってそのまま時間切れになった場合も勝ちと見なされる。これがあと二回繰り返されて勝敗が決まるのだが、今回は略式なのでそこまではしない。  初戦は延長までもつれ込み、胴を決めた白組の勝利になった。幸先の良いスタートだ。翠はそれなりの距離感を保って生徒たちを激励する。
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