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――――――
「あれ?おばあちゃん外で待っててくれたんだ」
「お母さん、今日は足の調子良くないって言ってたけど、大丈夫だったの?」
そんな声が聞こえてハッとする。
「え?」
私はいつの間にか門扉のところまで来ていた。
――――どうして?私は玄関先で止まっていたはず・・・・・・
先程まで弱かったはずの風が吹き始めて、薄らいでいたはずの金木犀の香りを運んできた。
そこで私は自分の記憶を手繰り寄せる。
あの時夫は『これからよろしくお願いします』と言ったはずだ。
でも、さっきまるで夢の中で聞いたように思えた言葉は
『これからも』だった。
私は玄関先にいたはずだ。
でも今は門扉の外に出てきている。
そっと目を閉じる。
今もそこにあるようだった。
夫がそっと抱き上げてくれた感覚も、あの落ち着いた声も。
そうなのね、あなたは言ってくれているのね。
この家を私が離れても。
この家が取り壊されることになっても。
私があなたを忘れない限り、あなたはこれからも私を見守ってくれているということを。
私はやわらかく漂う金木犀の香りを体の内に留めておくように、あの時の感覚が霧散して行かないように胸の辺りを抱きしめた。
「おばあちゃん?」
「お母さん?」
不思議そうに私を見ている亜沙子と亮輔に、私はこう言った。
「これからもよろしくね」
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