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「メタル・テンの事件に関しては、取材班は組みません。この件は城西担当の蠣崎君が単独で追って下さい」
俺はこの上司、河野新太郎が死ぬほど大嫌いだ。
「ちょっと待って下さい! 何で、班組まんのですか」
「説明しましたよね。経済部に声かけて情報集めましたが、何にも出ません。専門商社としては異例なほどクリーンで評判は上々です。過労自殺の線は薄い。ベタ記事が関の山でしょう」
やさ男の慇懃な物言いが、ますます俺のイライラを積もらせる。
「いや、ぷんぷん臭うっしょ。親御さんからタレこみが来て、間にゃ遵法弁護士やユニオンも入ってない。普通は静かにしてる会社側が、ご丁寧に今日、会見まで開く。明らかにおかしいっしょ」
「だから、蠣崎君に追ってもらいます」
「あのね、地方回り終えたばっかの3年目に、引き出せるわきゃねぇっしょ、な蠣崎」
俺より十も年下な蠣崎は、デスクとの板挟みで何も言えず、困った顔をする。
「ですがねぇ、高杉クン、君は経済部で勇み足をした、まだ謹慎中の身でしょう。メタル・テンは三友の資本が入るかどうか微妙な時期です。誤報流したら、それこそ損害賠償ですよ。もう、社会部でも君を預かれなくなりますから」
うるせ。俺はこんな会社、いつクビになったってかまやしないわ。
保身献身しか頭にない米つきバッタなこの男とは、心底馬が合わん。
「ならせめて、遊軍として少しだけ追わせて下さい。情報は全て蠣崎に流し、記事もこいつから上げますから」
「キャップと私で厳し~くWチェックしますよ。根拠薄弱な主観記事など、100%通りませんからね」
そう言うやデスクは朝の定例を散会にしやがった。
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