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3.会社側発表
午後、蠣崎を連れメタル・テンの会見に出向く。
会場には新聞記者しかおらず、テレビはゼロ。ライバルの東亜日報だけが3人で班を組み、他紙は若手記者だけ。カメラもなし。俺は念のため蠣崎にスマホで動画撮影するよう指示した。
が、会見では予想以上に何も出ない。
会社の労務管理状況――平尾から聞いた通り、工場もオフィスも定時にロックアウトで皆が退出。社内ネットワークもそこでシャットダウン。さらに電話回線まで落とし、社用の携帯電話さえ不通にするという念の入れようだ。
同社はこの時短システムに1億円をかけており、それはビジネス誌やテレビでも取り上げられた、と過去のパブまで配られる。
一方、この会社の「らしさ」は会見の随所で垣間見られた。
まず、当該社員――土田渉君のタイムカード全記録が配られた。ご丁寧に社員カードの入出時間データまで添えられている。まさに「バカ正直」だ。
続いて、社長の会見。
「すべて皆様にお伝えします。それが亡くなった土田君のご親族にできるせめてものことですから。取材は基本、お断りしません。社員へのインタビューもアポなしでどうぞ。全社員に包み隠さず対応するよう、厳命しております」
う~ん、これじゃボロがありゃ隠し通せん。そこまでやるとは、やはり、この案件はスカ・・・。
ただ一つ、収穫があった。
会見を仕切っていた社長室長―ー神保崇という男、こいつ、高校時代のクラスメイトだ。そんなに仲良くもなく、よくある苗字だから、17年も経ちゃ普通は思い出せんところだ。が、こいつは並外れたイケメン。高校時代にゃ女をコロコロ替える遊び人で有名だった。その風貌は衰えを知らない。当然、いやが上にも記憶は甦る。
律儀でバカ正直な社風が伝わる会見の中で、この神保という男のみ、空気を壊しっぱなしではあった。奴だけ、冷徹に会社の無実・潔白を声高に叫ぶ。鼻白む嫌らしさを醸し出していたのだ。
ああ、人はやっぱり変わらん。その手前勝手な軽薄さは、高校時代のまま。
俺は、会見終了の間際、質疑応答で手を上げ、社名と自分の名前、そして出身高校まで口にしてどうでもいい質問を一つした。
神保も俺に気づき、ほんの小さく、親指を立てた。
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