4.母親

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4.母親

夕方に、自殺した渉君の実家に赴く。 西東京市の新興住宅によくある、瀟洒な木造モルタルの家だった。 「何で今さら世間に恥を広めなければならん」 対応に出た父親は、インターホン越しにそう一喝しガチャリ。 蠣崎が「そっちがタレ込んだんじゃないですか」と耳打ちする。俺は小声で「いいから」と言い、手前の路地に退いた。 5分もすると、買い物かご下げた母親と思しき人物が、周囲を伺うように門扉をあける。 彼女を見るや、蠣崎がまた俺に耳打ち。 「ありゃ、すごい美人ですね」 俺は黙ったまま奴をにらみつけ、そして奥さんに軽く会釈をした。 「お待ちしてました」 「すみません、お茶でもしながらでいいですか」 近くの喫茶店は狭く周囲に話がダダ漏れとなる。なので俺たちは200mほど歩き、街道沿いのファミレスに入って、それぞれが飲み物を頼んだ。 やおら、母親が切り出す。 「私は、渉の会社には全く文句がないんです。もう2社も辞め家に引きこもってた渉を、あの社長さん、雇って下さったのですもの」 喪も明けない時期なのに、強めの香水が鼻をつく。 「遺書とかなかったですか」 「いえ、それが何も」     
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