◇ 第1話

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 ここは食事処『みちづき』。駅から続くメイン通りを歩いて、一本脇に逸れた場所にある小さな店だ。商店街からもほど近く、少し歩けば昔ながらの住宅街があることから、オープン当時から通っている常連さんが多くいる。  一階が店舗で二階が住居という造りの建物は、もともと僕の叔父が店の主人だった。しかし、その叔父が体調を崩して調理場に立てなくなったため、叔父さんのところで修行中だった僕が引き継ぐことになった。  最初は自分には荷が重すぎると言って僕は断った。  しかし、叔父夫妻には子供がいない。ふたりで切り盛りしていた小さなお店なので継ぐ人もいない。選択肢は店を畳むか僕に継がせるかの二択しかなかった。  結果的に周囲や家族の後押しもあって、僕はいま、この場所にいる。  先代と言える叔父から店を引き継ぐというのは大変なことで、引き継いでから二年ほど経ったいまも、多くの人に支えられ、助けられながら周りに育ててもらっている。  早く一人前になりたい。そう思う一方、桃栗三年柿八年ということわざもあるし。常連さんたちにも「五年は経たなきゃひよっこだろ」とはっきり言われてしまったのでその言葉は絶対に口に出さないようにしている。  僕はそのときそのときにできることを、地に足をつけてしっかりやっていきたい。 「ごちそうさまでした」  朝食を終えたら洗い物や洗濯、部屋の掃除を済ませて買い出しに出る。     
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