下島 4

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下島 4

 人間の手が欲しい。潰せる指を持った人間の手が。  下島の頭はそのことでいっぱいだった。家にじっとしていられずに、今日も見知らぬ土地を歩いた。ポケットには角の欠けたレンガが入っている。もちろんそれを使おうというつもりはない。  人通りの絶えた薄暗い通りを歩いている時だった。  前方から歩いてくる人影を認め、少し見つめてから、下島はすっと脇の建物の陰に身を潜めた。  似ている。だが、そうでない雰囲気もある。こんな場所で行き会うわけがない。そう下島は思ったが、完全に否定することもできなかった。  処分したはずのレンガをポケットに入れて歩いている。そんな罪悪感だけで、すでに川口の前に姿をさらす勇気はなかった。  男が近づいてきて、通り過ぎていった。  川口はカツラをかぶっていた。一瞬別人かとも思ったが、頭にある髪の毛が自毛でないということは、薄明りの下でもわかった。遠くから見たときに雰囲気が違うと思ったのはカツラのせいだ。  カツラのほかにメガネもかけている。なぜ川口はそんな恰好をしているのだろう。  十分距離を置いたと思われるところで、下島は物陰から出て、川口の後を追った。その後ろ姿は間違いなく川口だった。
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