川口 5

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川口 5

 川口は頭を冷やすために、車を止めた駐車場のはるか手前でタクシーを降りて、夜の道を歩いた。  先のことは考えたくなかった。考えるのが怖かった。二回りも歳の違う女だ。だが、俺はその女を好きになろうとしている。  この先、どうなっていくのか、全くわからなかったし、どうなりたいといった希望もなかった。  二週間後に女と会う。会って食事をし、猫と戯れる。それだけだ。それ以上はない。その次に会う時には?  それはわからない。その次があるのかもわからない。なるようになる。なるようにしかならない。それだけだ。  川口は夢遊病者のように自分の考えに取りつかれたまま、自分の車の止めてある暗い駐車場へと入っていった。
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