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下島 2
下島は自宅マンションに入ると、明かりをつけた。ポケットのレンガはそのままだ。
押入れの扉を開け、奥から箱を取り出す。中には角の大きく欠けたレンガが入っていた。それを取り出し、ポケットのレンガを箱の中にしまう。
川口にはレンガを処分するようにと言われていた。処分をするというのは、足が付かないようにするという意味だ。指を潰した傷害事件くらいで、警察がどれほど真剣に調べるかわからない。しかし、警察が入り、レンガを見つけて詳細に調べられれば、それが凶器だということが割れてしまうだろう。川口は用心深い男だから、今日も念を押した。処分するということは、粉々にして川にでも捨ててしまえということだ。
だが下島にはそれができなかった。指を潰した時の感触がまだ手に残っていた。
数カ月前に初めて赤いレンガを渡された時、それで相手の顔を殴れということかと思った。だが、川口の指示はもっと残酷だった。
初めて小指をレンガで潰そうとした時、下島は失敗した。指の半分ほどの所に当たり、指の皮と肉をそぎ落として、レンガは固いコンクリートを打ち付けた。それでレンガの角が欠けた。
もう一度やり直し、二度目には確実に指の骨を潰すことができた。
川口は何とも思わなかったかもしれない。だが、下島は川口の前で大きな醜態をさらしてしまったと思った。
それから下島は似たようなレンガを買ってきて、人目につかない場所でレンガを打つ練習をした。他人にはくだらないことかもしれなかったが、下島にとっては大事なことだった。
下島は新しいレンガを入れた箱を再び押入れの奥にしまい、欠けたレンガをポケットに入れて立ち上がった。
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