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川口 3
その猫カフェには先客が三人いた。若い男が二人に若い女が一人。
川口はいつもの場所に陣取ると、三毛猫のミケを探した。店に入った時から探していたが、見つからなかった。
すると、若い女に抱かれているのがミケだと気が付いた。
川口はミケを諦めて、近くにいた白い猫を抱き上げた。
「よし、お前は普通にシロでいいな? 犬みたいな名前だけど」
川口は小声で、今抱きかかえた猫に話しかけた。
白い猫の頭を撫で、ついでに顔を寄せて匂いを嗅ぐ。猫の顔を自分の顔のすぐ前に持ってきて、その小さなピンクの鼻を自分の鼻にこすりつける。
離れると、白い猫はニャンと鳴いた。
「よし、よし」
言いながら川口はシロの背を撫で、のど元を撫でてやる。それから仰向けにし、腹を撫でる。そしてそのままシロを抱え上げ、やわらかい毛におおわれた腹へ自分の顔を埋めた。
「フーッ」
聞きなれない声がした。
シロを離して顔を見る。白い猫は仰向けにされたまま、両前足をコの字に曲げ、おとなしくしている。
川口はもう一度シロを抱え上げて、おなかの匂いを嗅いだ。
「フーッ」
シロが発した声だった。
この猫はなぜか、今すごく機嫌が悪いらしい。それとも川口のことを嫌がっているのか。いずれにしろ怒っているのは間違いない。
川口はそんな猫は初めてだった。だが、そんな怒ったような、不快そうな声もすごくかわいいと思った。
気性の穏やかなミケなら、決してそんな態度は取らない。川口はそう思いながら、女に抱かれているミケを見た。
若い女は両手でミケを抱え上げ、にらめっこをするような態勢でいる。何か心の中で、ミケとしきりに話をしているように見えた。
不意に女が顔を上げて川口を見た。
少し見つめあって、川口は視線を落とした。目鼻立ちの整った綺麗な女だった。スタイルもいい。性格が良くて、頭も少しばかり回転が良ければ、店のホステスとして働かせても人気が出るだろうと値踏みした。
川口はもう一度白い猫の腹に顔を埋めた。
もうシロは不機嫌に喉を鳴らすことはなかった。
機嫌は直ってしまったらしい。
フーッという声を聞けなくなって、川口は急に白い猫に対する興味を失った。というよりも、猫よりも女のほうに興味を持ってしまった。
川口はもう一度、女を見た。
それに気付いたのか、女も顔を上げ、また目が合った。
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