第1章

3/13
前へ
/13ページ
次へ
「えっ。カッコ付けてたの? っていうことは、実は無理してた感じ?」 「ちょっとだけね」  照れたように笑う彼女。  そこで俺は彼女のステータス異常「照れ」に気がつくことが出来た、ということを自覚した。分かりやすく言い直すと、俺は彼女の照れた姿を可愛いと思ったんだ。今までそんな印象を女性に持ったことはなかった。女ってのはすぐ嘘をつくし、逃げるし、都合の良い自己解釈が得意で、瞬間を生きる感情的生命体だと思ってたぐらいだ。攻略方法は何となく知っていても、理解出来ない存在。  でも俺は気がついた。彼女の照れに。愛らしさに。  たぶんその瞬間が、俺が恋に落ちた瞬間だと思う。  で、それから数年付き合った。  俺は彼女に色んなものをプレゼントしたり、色々なところに連れて行ったり、適切なタイミングで「好きだよ」とか「愛してる」とか「可愛いね」みたいな事を言ったりした。全部自主的にやった。喜ぶかなー? って動機で、中学生みたいな真似もいっぱいした。  ひょっとしたら自己満足だったかもしれないけど、俺はちゃんと彼女の事が好きだった。おう、愛してたって言っても全然恥ずかしくないぜ。何せ色々と遊んできた俺が一切の浮気をせず、ワンチャンありそうなシチュエーションがあってもサラっとスルーしてきた。というかそもそも「彼女います」って公言していた。友人達は「お前もようやく大人になったか」とあきれ顔で笑っていた。  愛してた。  とっても愛してた。  気持ちも金も時間も、全部を美貴に捧げた。 「無理しないでいいよ」とか「たまには私にも奢らせて」とか「クリスマスプレゼントには一万円以上使うの禁止!」とか言われたりしていた。  数年付き合った、って言ったよな。俺はその短い期間、彼女のために生きたと言っても過言じゃない。  美貴に好かれたくて愛されたくて、ずっと一緒にいたかったから結構必死に頑張った。繰り返すが自主的にやった。全力を出したら後で面倒臭くなるなぁ、って自覚はあったけど、俺はその都度全力を出した。クリスマスプレゼントは一万円以上禁止? なら、色紙を切ったり貼ったりして部屋をデコってやんよぉ! ってな。自分の部屋を小学生が学校の教室でやるパーティみたいに飾り付けて、ちょっと高いワインとケータリングを用意して、プレゼントは九千八百円(税別)のカシミアのマフラーを用意したりした。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加