第1章

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 まぁ答えありきの話しだ。直感的に「殺そう」と思って、その理由は全部後付けだ。まず最初に「殺そう」と思った。 ・馬鹿にされた。 ・ないがしろにされた。 ・今まで散々貢いできたのに、センキュー・ソーリー・グッバーイで終わらそうとする美貴にムカついた。  別に「プレゼントとか金とか時間とか全部返せ」とは思わない。くれてやる。だが捧げた気持ちに応えろ、という感情は当然のように発生した。  どう伝えたらいいのか分からなかったけど、俺は混乱したままでもきちんと自分の気持ちを口にした。 「俺は美貴と付き合うようになって、自分の人生を美貴に捧げてきたつもりだよ。そして願わくば美貴の人生が欲しかった。でも、お前はそうじゃなかったのか?」 「ごめんなさい。翔太の事は大好きだけど……ごめんなさい……」 「――――旦那と別れて、俺のトコに来いよ」  俺は最大限譲歩した。というか、愛にすがりついた。美貴と一緒にいたかった。しかし正直なところ、俺はかたくなに秘密を守り通していた彼女にドン引きしていた。潮時だった。 「っていうか、俺達ずっと一緒にいたじゃん。旦那ってのも、別に愛してないんでしょ? あ。別居中? ならいいだろ? 俺と一緒にいてくれよ」  美貴は困ったように微笑んだ。 「子供を裏切るわけにはいかないの」  俺は美貴を殺すと誓った。  考えた、ではない。誓ったのだ。  何故って?  俺が号泣してるのに、こいつは微笑んだのだ。  自己陶酔が透けて見える、利己的で、感じの悪い微笑みだった。  このままでは健全に生きられない、と俺は悟った。  今後しばらくは何をしても美貴の事が頭の中をチラつくし、何をしても美貴を思い出すだろう。愛の反対は無関心とは言うが、愛してるが故に殺意がわいた。だからこれは愛憎……つまりコインの裏表ではなく、きっと側面部分だ。故に愛でも憎しみでもなく殺意。  殺すっていう言葉には濃度がある。日常的な突っ込みで「殺すぞ」と笑いながら言ったり、恥をかかされた怖い先輩がどう猛な顔で「あいつ殺す」と言ったり。しかしながら本当に人間を殺すヤツはいなかった。少なくとも俺の周囲には。たぶん半径五キロ以内には。
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