第1章

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「殺す」っていう言葉の濃度は高くなりすぎると、言葉に出来ないのだ。ボーダーラインを超えたり、殺さないラインまで戻ったり。一進一退のバイオリズムめいたもの。そして概ね俺の「殺す」っていうワードは、口からこぼれるようなものではなかった。  君のために生きたから、俺のために死んでくれ。  それは痛切なお願いだった。  何故だろう、と自問を重ねた。  別にいいじゃねぇか。今までだってそうだった。寝取ったり寝取られたり、普通に嫌われたり、それでも好きだったり。愛してるといいながらセフレ作ったり。  だけど美貴だけが違った。  何が違うのかは今もまだ分からない。  美貴よりもイイ女なんて、この世に山ほどいる。探すまでもなく、そこら辺にゴロゴロしている。きっと俺はこの失恋……失愛? まぁとにかく、この挫折から立ち直る事も出来るだろう。別に親兄弟を殺されたわけではないのだ。ただ俺の数年を全否定されただけ。無価値だと断じられただけ。うん、悔しいけど仕方が無い。一万円で何が買える? って質問をしたら、みんな違う答えを言うのと同じだ。  ――――なんて、延々と考えて最後には「あ、面倒くせぇ」と投げやりになり「やっぱ殺すか」という結論に立ち戻る。  結局のところ、俺は「本気出して人を愛したけど報われなかったから癇癪を引き起こしてるガキ」と同じなんだろう。  というわけで、俺は美貴を殺した。  別に計画的にやったわけではない。  だが勢いで殺したわけでもない。  別れ話の二日後。最後にもう一度だけ食事をしよう、と誘って車に乗せ、レストランに行く前に夜景でも見るかと提案し、山奥の車中で絞殺した。  ぶっちゃけよく覚えてない。初めてセックスした時みたいなもんだ。エロビデオを見たりして手順は知っていても、実際にやるとなると大事だ。テンパるし、がむしゃらだし。  美貴の死に顔は汚かった。でも目を閉ざしたり口元を綺麗にしたり、必死こいて整えると美貴は眠っているようにも見えた。顔色悪いけど。死んでるけど。 「……どーすっかなぁ」  自首するかー、と他人事のように考えた。
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