第1章

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『今もなお、嘘を重ねて言い訳をし続けて、欲しいモノを何でも得ようとしている』 『許してくれだって?』 『なんでもする?』 『ならさ』 『君のために生きたから、僕のために死んでくれ』  同じ言葉を、俺は先日思い描いた。  でも違った。意味合いも、真剣さも、哀しみも、愛も。全部「負けた」と思った。  ぼんやりと続きをスクロールする。  ようやく美貴が返信をした。 「死んだら許してくれるの?」 『別に許すとか許さないって問題じゃないよ。ただ、君が出来ないことを一例をあげただけ。取り返しのつかないことを現在進行形でやっているって自覚してほしいだけ』 「ごめんなさい。私、カズキに会いたい。カズキと一緒に暮らしたい」 『……でも、別に僕と一緒にいたいわけじゃないんだろう?』  数分のタイムラグ。その後、美貴はこう言った。 「ううん。あなたとも一緒にいたい」  誰にでも分かる嘘だった。 『無理だね。その寂しさに耐えきれないから浮気を続けてる君は、もうとっくに破綻している。カズキと一緒にいる資格は無いよ』 「私が産んだ子なのに!」  「ひどい!」 「私の子供よ!」  再び写真が送られる。先ほどと同じ写真だが、より近い構図になっていた。鮮明に写る逢い引きの姿。 『よく言うよ』 「ごめんなさい。今から別れてくる。本当。信じて」 『無理だと思うよ』 「私は本気です」  そこで会話は終わっていた。  日付は二日前。時間帯的に見て、この直後に俺はふられているわけだ。  俺は失敗した、と思った。  どうしよう、と焦った。  殺してしまった。  俺よりも強い殺意を持っていたであろう男を差し置いて、俺は美貴を殺してしまったのだ。  なんて、なんてみっともない事をしてしまったんだ。  我慢が足りなかったのか? どうすりゃ良かったんだ? 一切の連絡を絶って、殺意が風化するまで待てば良かったのか?  殺したかった。だから殺した。なんて短絡的な。  俺は。  ピリリリリリリ!  事務的な着信音が鳴り響く。  美貴の携帯に着信あり。表示された名前は旦那のもの。  出たい、と思った。  話したいと思った。  同じ女を愛して、裏切られた俺達。何かを分かち合いたかった。  だけどそんなこと出来るわけがない。何を話すっていうんだ。お前が殺したがってた女を先に殺しておきました、とでも言うつもりか? 馬鹿馬鹿しい。
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