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オレの兄、蒼龍は生まれた時から目が見えなかった。
つまり、光を知らないまま一生を生きることを、生まれ落ちたその瞬間に義務づけられていたということだ。
そしてオレ達は二人とも未熟児だった。それもかなり危険な。
オレ達をとりあげた医者は、恐らく二人ともこのまま成長することは不可能だと言い切ったという。特に兄者の方はまともに泣き声をあげる事も出来なくて、数週間もてばいいほうだとさえ言われていたため、父さんはとうとう兄者の分の出生届を出すことすらしなかった。
父さんにとっては、オレ達は必要ない存在だったのだ。
その証拠に、オレ達が少し大きくなった頃、父さんが忌々しそうに言った事がある。
「お前も蒼龍も、本当なら生まない予定だったんだ。俺は何度も反対したんだ。あいつの身体で子供を産むなど無理だと。何度も諦めろと言ったんだ。なのに……」
低い声でそんなことをつぶやきながら、父さんはいつもひどく疲れた顔をして、不味そうに酒を飲んでいた。
そして、その酒の量は、母様の具合が悪くなるにつれて、徐々に増えていった。
母様はオレ達が生まれてから一度も家の外へ出たことがない。
父さんが言っていたとおり、もともと身体の弱かった母様に双子の出産など無理だったのだ。
何時間もの苦しみの後、なんとか一命は取り留めたものの、オレ達二人が初めて外の空気を吸い込んだ時には、母様の肉体も精神も、もう手の施しようがないくらいボロボロになっていた。
息があるのが不思議なくらい焦燥した母様は、もう、まともな精神でいることすら出来なくなっていたのだ。
自分の夫の顔すら見分けのつかなくなった母様は、それでも兄者を抱き上げ、私の息子だと言って涙を流したのだと言う。
その時の母様は、聖母マリアのようだったと、ずっと後になって父さんがポツリとオレに洩らした事があった。
あの頃、父さんはオレ達が死ぬことを願っていた。母様の精神を狂わせた元凶であるオレ達を、父さんはどう扱っていいのか解らなかったのだ。
父さんは、自分の血を分けた息子を愛さない父親だった。
いや、愛せない父親だったのだ。
それでも、オレ達は生き延びた。何度も死の淵を彷徨いながら、それでもオレ達は死ぬことはなかった。
たとえ、半分しか生きている実感がなかったのだとしても。
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