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オレが一歩部屋へ足を踏み入れると、母様は怯えたように後ずさりした。
その目は、オレのことをまったく知らない他人だと思っている目だった。
「あなたはどうして此処に居るの? 此処はあなたの家じゃないでしょ」
家に突然入って来た闖入者。母様にとってのオレはまさしくそれだった。
「オレの家だよ、此処は」
「…………?」
何を言ってるの?
そんな感じで母様は首をかしげてオレを見た。
どうして。
どうしてなんだ。
オレと兄者は本当によく似ていた。父さんでさえ間違えるほど。輪郭も鼻も口も髪もそっくり同じ。違いといえば目が見えるか見えないかだけ。
それなのに、母様にとってオレと兄者は似ても似つかない子供に見えるのだろうか。
「なんで知らない振りをするんだよ。オレも兄者と同じ母様の子じゃないか」
「何言ってるの? 私の息子は蒼龍一人よ。変な事言わないで」
突然、母様の目が責めるような光を帯びた。
「……解ったわ。あなたね、蒼龍を隠したのは」
「……え?」
すっと母様が立ち上がってオレを睨みつけた。
「昨日から姿が見えなくて……やっとわかったわ。あなたが私から蒼龍を取り上げようと何処かに隠したんでしょう!」
母様の剣幕にオレは恐怖さえ覚えた。
「な…何言ってんだよ、母様。兄者は風邪をひいて自分の部屋で寝てるよ」
「嘘おっしゃい! そんな言葉で私をだまそうとしても無駄よ。蒼龍を返して!! 早く返してよ!!」
家中に響き渡る程の大声で母様は兄者の名を叫び、オレを責め続けた。
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