椿

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椿

透の家はスーパーを越えた先にあるから、橋で偶然にも出会わなくもないが、そんなことは起きず到着した。六人掛けのカウンターと四人掛けのテーブル席が五つほどある小さな店だが、料理が美味いし、学生時代にも財布に優しいリーズナブルな値段だったため、よく透や大学仲間と来ていた。  店の扉を引くと、テーブル席は知らない人で埋まっていて、カウンターに透の姿があった。大学生の頃は茶髪に染めていた透だが、社会人となって元の黒髪になっている。未だ見慣れない。 「おー、玲司!」  おしぼりで手を拭きながら声をかける。その姿を見ると、透もきっと着いたばかりだったんだろう。 「おつかれ」 「お前もな!」  透の横にある椅子を少し離して席に着く。会ってみて分かったが、相変わらず俺は──。 「とりあえず、ビールでいい?」 「あぁ」  すいませーん、とカウンターにいるスタッフに声をかけ、ビールを注文するとすぐさまカウンターからビールが到着した。 「んじゃ、改めておつかれー」 「おつかれー」  社会人になってから、大学生の頃とは比べものにならないくらい、ビールが美味い。体は老いに向かっているというのに、心だけがまだ取り残されている。 「最近、どうよ」  透がメニューを見ながら話しかける。 「研修の毎日でやっと一段落って感じ」  玲司もそのメニューを逆さまから覗き答える。 「俺も。俺の配属先の先輩は優しかったんだけど、同期の配属先の先輩がやばいらしい」 「やばいって?」     
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