椿

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 部屋の入り口に立っていた玲司が、足早に透のところへ向かい、ベッドに膝を立てて透を抱え込み、透の後頭部を手で覆い自分の胸に顏を押さえつける。  自分でも分からない、けれど、そうしたかったから体が自然に動いた。心苦しく、不謹慎かもしれないが、愛おしいと思ってしまった。 「れ、いじ!」  透は急なことに驚いて、一瞬涙が止まった。 「情けねぇよ、ほんっと情けねぇよ!」  透の言葉を遮るように、玲司が悔しそうに言う。後々考えると、これは自分に向けた言葉だったのかもしれない。こんなことしかしてやれない自分勝手な、俺が。 「男がわーわー泣きやがって、あんな、あんな浮気女に利用されて、それでも、真っ直ぐに、正直に、素直に、真剣に相手を思って来たお前は」  透の後頭部に置いた手の力が強くなる。 「情けなくなんか、ねぇよ」  掠れた声でその言葉を放った。瞬間、透はまた震え、歯を食いしばり唇を噛み、涙を堪えようとする。 「今は泣けって。情けねぇ姿も見届けてやるよ」  それから玲司は泣き続けた。泣きながらも、現実に立ち向かっている。利用されていたにも関わらず、透は彼女のことを悪く言わなかった。俺なら発してはいけないぐらい、ひどい暴言を吐くだろうに。こいつはどこまでお人好しで優しい誠実なやつなんだろうか。  そして玲司は彼女に苛立っていた。透と正々堂々と付き合える女性なのに、周りを気にせず透と向き合えるのに、それなのにこんな形で透を捨てた。俺は向き合いたくても向き合えないのに。       
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