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透の部屋を後にする。服から放たれる透の残り香が苦しく愛おしい。
俺はきっと、玲司のことが好きだったんだ。そう認めざるをえない胸のざわめき。性別という大きな壁。
自分には未知の世界過ぎて、越えようとは思えなかった。踏み込むのが怖かったし、告げた先にあるのは、透を失うということだろうと分かっていた。
透は優しいから、俺の告白も丁寧に断って、それでも今まで通りの関係でいてくれるんだと思う。
けれど、俺の中の透はその瞬間から失うことになるだろうし、きっと今まで通りでいられない。透が現実を知って苦しんでいるというのに、俺はまた透を苦しめることになるのか。
それは、嫌だ。
玲司は、恋心を抱きながらも、いつも通りに接していこうと決意した。今だけだろう、時間がきっと解決してくれるだろう、と。
次の日別れを告げたと、透から夜に連絡があった。やはり別れたくないと言われたらしいが、はっきり断ってきたと。その一言二言だけの会話を終え、電話を切る。
その日から透は恋愛をしなかったし、単に機会がなかっただけかもしれないが、月日が流れ大学生活を終えた。
「……懐かしいな」
玲司は結局好きなままで、時間が経っても消えること無く、むしろ思いが増して、一人悩むこともあったが、その度にあのクリスマスを思い出しては自分に言い聞かせて来た。透を苦しめたくない、と。
寒い夜はより一層あの日の事を思い出させる。昼間の長袖シャツの上に一枚カーディガンを羽織り、紺色のロングコートを着る。財布をボトムの後ろポケットに、携帯をコートのポケットに詰め込み、居酒屋へと向かった。
居酒屋までの道のりは、スーパーに行く道と途中まで一緒だった。スーパー手前に川に架かる橋がある。その橋を渡り少し歩いた右手にある。
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