椿

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 玲司は両手をコートのポケットに入れ、道路の片隅を歩いていた。道路は二車線になっているものの少し狭い。彼の横にはガードレール、その奥には椿の木が道に沿って軒並み存在し、下方には川が流れる。椿の花は、控えめに、けれど誇り高く咲いていた。  玲司は自宅から徒歩五分程度のところにあるスーパーマーケットへ、夕飯を買いに向かっていた。  自宅マンションのエントランスを右に出たら、最初の曲がり角を左、そして突き当たりを右に出ると、この椿の並木が見える道にあたる。  そうして並木を右に沿って三分ほど歩くと、左手に横断歩道が見える。その歩道を渡った先に御用達のスーパーマーケットがある。  今年の仕事も一段落つき、明日は久々にゆっくりとした休日を迎えられそうだ。 「ってもクリスマスだし外に出るのもな……」  外に出れば人で溢れ返っているし、クリスマスの光景を目の当たりにしたら、また苦しいだけだ。暦通りの休日がたまたまクリスマスだなんて迷惑な話だ。  明日は出かける気力もなく、家でひたすらグダグダと怠けるために、食料を休日セットとして買っておこうと決めた。  そう明日のプランを考えながら歩いていると、ピロン、と携帯電話の通知音とバイブレーションが体に伝わって来た。ポケットから携帯を取り出し仕事関係ではないことを願いつつ、画面を見る。  そこには見慣れた文字、(とおる)の名前があった。 「透か」    玲司は上司からではなく安堵した。社会人一年目というものは休日もあってないようなものだ、と入社二ヶ月目には悟っていたからだ。    透との出会いは大学の入学式だった。  式は大学の大ホールで行われたのだが、ちょうど隣に居合わせたのが透だった。  赤レンガを少し暗くしたような色の短髪で、背丈は玲司と同じ177センチぐらいで細身。    そして何よりも目がとても綺麗だと玲司は思った。  奥二重に押され睫毛が斜め下に伸び、その目の奥が透き通っていて、心の底まで見透かされてしまうような、そのくらい澄んだ瞳だと思った。     
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