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椿
万が一、他に好きな人がいたら別れを告げているだろうし、今は距離を置くべきじゃないか、と判断した。
透は寂しそうな顏をしながらも玲司の考えにうなずいた。
玲司の言う通りに連絡を途絶えていると、三日後に彼女の方から連絡がきた。
玲司は真っ先に浮気を疑った自分とは反対な透の純真さに、自分の心が醜くも思えた。
しかし、彼女の振る舞う「透の彼女」は仮面であり、これらの仮面が剥がれ落ちたのは、クリスマスイヴだった。
透はもちろん彼女と過ごすつもりだったが、カラオケ店はこのシーズン、客が多いことと、シフトの人数も足りないことから出勤することになったから過ごせないと彼女から淡々と断られてしまったのだ。
それなら事前に一言くれれば良いものの、仕事ならばしょうがない。また別の日にクリスマスをしよう、と話はまとまり、透は一人で二日間を過ごすこととなった。
独り身の玲司はもともとシフトを入れていて、この日は街が混雑するため少し早めに家を出てアルバイト先の喫茶店へと向かっていた。
喫茶店もこの日はいつも以上に繁盛していて、この時期、寒いテラスに座る人もほぼいないのだが、今日はテラスも満席だ。透はテラスを後にした客の皿やティーカップを片付けに出た。
動いているとはいえ、寒い。テラスの横をカップルたちが腕を絡め、手を握りしめ、通る。が、ひとつのカップルだけ違和感があった。
知っている、あれは、透の、透の彼女だ。
なぜ隣に透じゃないやつが……
——お前は何してるんだ。
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