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「クリスマスなのに予定がないなんてなぁ」
チーフがにやつきながら話しかけてくる。チーフも彼女いないくせにと思いつつもその話を受け流し、今の悩みを口にする。
「彼女が、知らない男と歩いていたら、どうしますか?」
「……彼女、え?」
彼女がいないと思っていた部下に彼女がいた驚きと間が悪いことを話してしまったかという焦りでチーフの目が泳ぎ、煙も波状に揺らぐ。
「あ、俺じゃないんです。友人の彼女が、友人とのクリスマスを断っときながら違う男と歩いている姿を見てしまって」
あぁ、とチーフは深く煙草を吸い上げ思いっきり吐く。
「それはもう浮気だな。俺なら友達に言うけどね」
上を見ながら答えるチーフの横顔は何かを思い出しているようだった。経験談だろうか、浮気と断定的に決めつける。
「傷つきませんか?」
「そりゃ傷つくだろうよ。でも黙っていることが優しさなんて俺は思わない。代わりと言っちゃなんだけど、全力でそいつのことフォローするな、しばらくは。呑みに連れてったり、女紹介するとか。まー、お前らまだ若いんだし、傷つくのもいいってもんよ!」
やはり経験談だったのであろう。口はにかっと笑っているものの憂いを帯びた目で遠い日を重ね合わせ玲司を見つめている。
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