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もうどの言葉を選んでも事実は変わらないならば早く現実を知った方が透の為だと、そう言い聞かせ玲司は言葉を選ぶことをやめた。
「あのな、お前の彼女、今日知らない男と歩いてたよ」
『……え、バイトのはずだよ』
透が平然を装うとしているが動揺しているのが分かる。
「嘘だったんだろ」
『歩いてたって、店長とかとじゃなくて?』
「店長と腕絡めるか? それに私服だった」
『……でも』
認めたくないが為に辻褄の合う理由を探す。玲司は苦しかった。なんで彼女を庇うのか、なんで彼女に苛立たないのか。透の真っ直ぐな心に玲司の曲がった心がぶつかる。
「おまえだって! ……薄々感づいてんだろ」
『──ッ……』
電話越しに伝わってくる透。涙を我慢している声も、現実を受け入れたくない脳も、震えている体も。
「透」
返事はない。堪えているんだろう。
「……今からおまえん家行くから、鍵あけといて」
『……』
微かに鼻から漏れる返事が聞こえた。
「じゃ」
玲司は内心驚いていた。透にではない。こいつに会って抱きしめたいと思った自分に。
クリスマスだからだろうか、人肌恋しくなっているのだろうか。分からない、けれどとにかく透に会いたい。いつもとは違う帰り道、透のアパートへと急ぐ。
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