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啓之新に促され、上総は座敷に向かった。
贅を尽くした料理がこれでもかと並んだ長大な座卓。その上座に啓之新が座り、彼の斜め横に上総が座る。続いて、湍龍会の幹部や湍津組の幹部らが席を埋めていく。
しかし、この場に当然いるべき麻子と萩阪の姿はない。
「おまえの帰還祝いだ。存分に食え」
「親父、……義母さんと萩阪は?」
啓之新は笑みを消し、障子に向かって呼びかける。
「隠れとらんで入ってこい」
障子が開き、大男が一礼した。
「蕗西……」
上総の声に、蕗西は表情を崩しかけたが、眉間をギュッと絞って耐え、上総の側まで進むと畳に額をこすりつけて土下座した。
「坊、守れなくて、すみませんでした……!」
上総は慌てて蕗西の肩を掴み、顔を上げさせる。
「やめろ蕗西、おまえが謝ることじゃないだろ」
「俺のせいです。俺があのとき一緒に行っていれば坊を守れたかもしれない」
「……たしかに出発のときは、おまえが来ないことを怒ってたよ。だけど後になって、おまえが来なくて良かったと思った。……おまえがあの場にいたら、なにがなんでも俺を守っただろう。宇比呂のように身を挺して……」
蕗西は大きく目を見開いた。
「宇比呂……あいつは、坊を守ったんですか」
「ああ、俺を庇って、小柳に撃たれた」
ザワ……と空気が揺れる。
「おまえを巻き込まずに済んで良かった」
蕗西は、上総を見た。
二年前と変わらぬ澄んだ瞳。けれどそこには戦おうとする強さがあった。
「蕗西、義母さんと萩阪はどこだ?」
蕗西は居住まいを正した。
「二人は鉄格子の中です」
「なに?」
「坊が見つかった翌日、野宗さんに引き渡しました。実刑は確定です。言い逃れはできない。確たる証拠がありますから」
「証拠? おい、どういうことなんだ」
蕗西は話しだす。
二年前から今日に至るまでの流れを。
それは彼の苦難の道程でもあった。
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