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「え?戻るの?」
運転手さんは驚いたようだ。どうやら私は三ツ屋駅から乗ってきたことになってるらしい。支払う持ち合わせがあるかはわからないが、そんなことを言っている場合ではなかった。私は「はい」と答えた。
「何のためにここに来たの?」
そう言う運転手さんの頭が、ルームミラーに映った。薄い髪に、広い額。その額の色は――真っ白だ。
ああ、やっぱり、という思いが掠めた。この人は、この世の者じゃない。しかし、この人を使うしかなかった。
「すみません。戻ってください。戻ってください!!」
その時、アクセルが思いっきり踏み込まれた。コントロールを失う車体。真っ直ぐに崖へ落ちていく――。
そこでハッとした。ガタン、ゴトン――一定のリズムで刻む走行音。私は、電車の一両目の座席に座り、寝ていたらしい。
夢――?
そう思った時、アナウンスが流れた。
「次は竹島~、竹島~」
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