第一章

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そして放課後の帰り道。 店の前で恵美ちゃんと合流してから、私と摩耶ちゃんと藤枝さんは前に来たパンケーキのカフェに来ていた。 合流して早々に藤枝さんを睨みつける恵美ちゃん。 それに対して特に何も言わない藤枝さん。 「それで?どう言う事なのかしら?」 それぞれが席に着くと、早々に恵美ちゃんの尋問が始まった。 「ちょっと静…。 さっきから何よこれ…。 修羅場…?私邪魔だったやつ?」 摩耶ちゃんがそれを見て居心地悪そうに小声で聞いてきた。 今はそれぞれが窓際の四人がけ席に着き、恵美ちゃん、藤枝さんが奥で対面になる形で、通路側に私、摩耶ちゃんが対面になる形に座っている。 摩耶ちゃんも雰囲気自体は最初から気付いていたみたいだけど、席に着いて流石に耐えられなくなったらしい。 「いや…そんな事ないよ。」 巻き込んでしまって申し訳ないなとは思うけど、多分私一人だったらこの雰囲気にはとても耐えられなかった。 「経緯は大体静から聞いたけど、とりあえず詳しい事情を聞かせてもらわないと。」 一度ため息を吐くと、恵美ちゃんはそう言って切り出す。 「…分かった。」 一方の藤枝さんはこうなる事が分かっていたのだろう。 毅然とした態度でそう頷いた。 「佐藤の元カノが私の友達ってのは聞いた?」 そのままどこか諦めたような表情でそう話し始める。 「聞いた、それで?」 「その子、多分まだ本当は佐藤の事が好きなのよ。」 「は?何それ?」 拍子抜けした表情の恵美ちゃん。 「え、確か佐藤君ってその元カノさんにフラれてるんだよね…?」 それには流石に私も気になって口を挟む。 「いや…なんて言うか…そのフッたって言うのもさ、別に嫌いになったからとかじゃなくて…。 お互いの為に遠慮しただけ…と言うか。」 言葉を選んでいるのだろう、時折考え込む仕草を見せながらゆっくりと語っていく。 「どういう事?」 「二人共一年の時はさ、同じクラスだったしいつも一緒だったんだけど…。 二年になってクラスが変わってからだんだん一緒の時 間が減って、すれ違っていったの。 佐藤もクラスが変わる前からだけど新しい友達が出来始めたからそっちを優先する事が増えてさ。 毎日してたメールのやり取りもなくなったり、弁当を一緒に食べなくなったり、一緒に帰らなくなったり。 その子がその変化の積み重ねに耐えられなくなったの。 このまま忘れられて自然に終わるぐらいなら私が我慢すれば良いんだって。」 そう言う表情は沈痛な物だった。 本当にその友達の事を大事に思ってるんだなと思う。 「それは佐藤が悪い!」 と、ここで横からフォークを向けながらそう口を挟んだのは今まで黙って聞いていた摩耶ちゃんだ。 「そもそもその元カノってどんな人なの?」 一方の恵美ちゃんはアイスココアを飲みながら、落ち着いてそう問いかける。 多分事情が分かって幾分か藤枝さんに対する疑念が和らいだのだろう。 「本当に優しくて良い子だよ。 ほら、私ってさ目付き悪いし…口も悪いから周りに感じ悪い人って思われてるみたいでさ。」 「「うん」」 それに恵美ちゃんと摩耶ちゃんが真顔で同時に頷く。 「えっと…うん。」 それに私もおずおずと頷く。 「いや…自覚はしてるし最初の印象が悪かったから仕方ないんだけど…。 同時に頷かれると流石に傷付くわ…。」 「あ、ごめん…。」 申し訳ないとは思うけどこの場で嘘は吐かない方が良いと思ったのだ。 「それで?」 一方の恵美ちゃんは特に悪びれる様子も無く続きを急かす。 「あーいや…。 だから中学の時さ、私の周りには誰も寄り付かなかった訳。 だから私もそれならそれで良いやって思ってたんだけどさ、でも美波だけは唯一そんな私に話しかけてくれたの。 席が美波の隣りだった時にさ、授業中に筆箱を忘れた日があったんだけど…。 でもこんな状態だったから 自分から周りに話しかけて借りるって気にもならないしさ…。 それでどうしようか困ってた訳。 そしたらあの子、それに気付いたみたいでさ。 「あ、あの、ペン無いん? これ、良かったら使う?」 そう声をかけてくれたんだ。 すごく嬉しかった。 些細な気遣いではあるけどその気持ちが本当に嬉しかった。 美波とはさ、それをきっかけに話すようになったんだ。 まぁ最初はやっぱ怖くて話しかけづらいと思ってたみたいだけどさ…今ではそれも笑い話に出来るくらいには仲良くなれたかなって思うよ。 それで今に至るって感じ。」 「ふーん、その話を聞く限りでは良い人そうね。」 とりあえず恵美ちゃんは話を聞いて納得したようだ。 「とりあえずその子がどんな子で、どんな状況で今に至ったのかは分かった。 でもさ、状況だけで言えば話し合いでどうにかなりそうな気もするけど。」 「いや…元々話し合おうとして呼び出しはしたみたいなんだけど…それで喧嘩になったみたいで…。」 「うわ、何それ最悪。」 「で、別れようって言ったらせいせいするって言われたんだって。」 「なるほどね…。」 頭を抱え、ため息を吐く恵美ちゃん。 「それは佐藤が悪い。」 そこに摩耶ちゃんも再びそう口を挟み、満場一致。 今すぐにでもその殺伐とした雰囲気で佐藤君に詰め寄りに行きそうな勢いだ。 「いや、でも佐藤君にも何か事情があったんじゃないかなぁ…?」 ここまでくると流石に佐藤君が可哀想になり、おずおずと口を挟む。 「「は?」」 それを聞いた恵美ちゃんと摩耶ちゃんに同時に睨まれた。 「ふ…二人とも目が怖い…。」 「静!この話を聞いてもあんたまだ佐藤の味方すんの!?」 と、まず摩耶ちゃんが机を叩いて身を乗り出してくる。 「あんたをその元カノの代わりとか言ってた奴だよ!?」 隣に座る恵美ちゃんは、言いながら私の肩を揺さぶる。
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