第一章

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人目を気にしてか、結局そのまま中川に屋上まで連れ出された。 「それで?私に何の用よ? さっさと本題に入ってよね。」 こうしてついてきたのは乗り気でじゃない。 面倒だし早く終わらせたかったから精一杯の不快感をぶつけてやった。 「元より無駄話をする為に呼んだんじゃねぇよ。 誰から聞いた?」 だと言うのにこいつは苛立ち返すどころかめんどくさそうにそう返してくる。 「なっ…!だ、誰だって良いでしょ!?」 「とは言えまぁ…聞いといてなんだが大体の見当は付いてるがな。 どうせ藤枝だろ?」 「っ…そ、そうよ!悪い!?」 「藤枝がどう言う思いでお前にその話したのかは知らねぇけどよ。 これは第三者の俺らが安易に口出しするような問題じゃねぇだろうが。」 「でも!悪いのはあいつじゃない!」 中川が言ってる事が間違いだとは思わない。 でも言われてばかりじゃ気に入らなくて反論する。 「まぁ確かにあいつが悪いのかもしれねぇな。」 「わ…分かってんじゃない。」 それに思いの外あっさりと同意され、拍子抜けしてしまう。 「でもそれはあいつが自分自身で気付くべき事だろ?」 「っ…!」 「あいつは今あいつなりに答えを探してるんだ。 自分の気持ちにも、元カノとの関係にも。 だから無理に理解しろとも仲良くしろとも言わねぇ。 今は大人しく見守っててやってくんねぇか?」 「何それ…?意味分かんない。 なんであんたそんなにあいつの肩が持てるのよ…?」 意味が分からなかった。 明らかにあいつが悪いのに、だから悪いとはっきり口に出さずに庇っているこいつの気持ちが。 「なんでだろうな。 あいつはあほだし、女々しいし、気持ち悪い事をさらっと言うからめんどくさい奴だなとは常に思ってるが。」 「あ、あんた本当にあいつの肩を持ってるの…?」 と思ったら先に批判していたこっちが不憫に思うくらいズバズバ本音を言ってる…。 「ただ…どうにもほっとけねぇんだ。 俺はあいつを。」 「意味分かんない…。 そんなにめんどくさいなら見放せば良いのに。」 「そうかもな。 でもよ、誰かの面倒を見るってのは必ずしもその誰かの為にする事だとは限らねぇんだぜ? 気が付けばそれが自分の為になってるって時だってあるんだよ。」 「ますます意味分かんないから…。」 「あんなのでも一応は幼馴染だからな。 どんな奴かってのは今までお前らよりもこれまでずっと見てきた。 だからあいつはいつか必ずあいつなりの答えを出す。 俺はそう思ってんだよ。」 「何よ、幼馴染なんて…。」 「だから頼むわ。」 それだけ言うと本当に無駄話するつもりはなかったらしく、さっさと背を向けていってしまう。 取り残された私は、一人呟いていた。 「良いなぁ…。」
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