第二章

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そして翌日、真夏の日照りが容赦なく襲ってくる朝のグラウンドに、二年生全員は朝早くから集められていた。 「大体なんでこんな真夏に登山合宿なんてやるんだよ…?」 「知らねぇよ…。」 たまらずぼやくと、ヤスがいつものように適当に返してくる。 「しかもこのくっそ暑い中でジャージって…。」 そう…今でこそ各々が上着を脱いで腰に結び付けたりしてるが、今回の合宿での基本的な服装はジャージなのだ。 その主な理由は険しい山道を歩くのに半袖は危ないから…なのだが…。 熱中症の方が危なくね?とはツッコんじゃいけないのか…。 「なんでも校長先生が元山岳部の部長だから、ちょっとこだわりがあるみたいだよ。」 横に居た高橋さんが教えてくれた。 「いや、経歴詐称だろ…。 あのひょろ爺のどこが…。」 実際俺達が通う桜乃木高校の校長は見た目からしてそんな経歴が似合うとはお世辞にも言えないのだ。 小池さんと大して変わらない程の低身長に、歳のせいで曲がった腰。 筋肉質だったとは思えない骨と皮の手足に、今帽子を取られたら真夏の日差しを容赦なく反射しそうな寂しい頭皮。 年相応のひょろ爺と言うのが俺の印象だからだ。 「そ、そんな事言われても…。」 俺の素直な感想に、高橋さんは困った表情でそう返した。 「えー、二年生の皆さん。 今日から皆さんが楽しみにしていた二日間の登山合宿が始まります!」 確かにそう俺達に話す校長は、テレビで山を登る人が着ているような服装だ。 気合い充分、暑苦しい事この上ないハイテンション。 ただでさえ暑いのに熱意まで伝えてくるとか児童虐待ですか、そうですか。 「誰だよ、楽しみにしてた奴は…。」 実際そんなハイテンションに乗れる筈もなく、ただぼやく。 「だから知らねぇよ…。」 それにヤスがまためんどくさそうに返す。 「わ、私は結構楽しみだったけどなー…。」 ここで高橋さんが横から遠慮がちに口を挟んできた。 「高橋さんは暑くないの…?」 「いや、暑いけど…。 でも恵美ちゃん以外の友達がいる泊まりがけの行事って初めてだから。 楽しみだなって。 そう思ってたらなんだか緊張して昨日はあんまりよく眠れなくて…。」 言いながら小さく欠伸をする高橋さん。 「あぁ…高橋さんそう言うキャラっぽい。」 いるいる、遠足とかで前日に楽しみ過ぎて寝られない奴。 で、当日に熱出したりするんだよな。 それが俺。 で、大体その翌日には治ってるんだ。 ちなみにそれも俺な。 「だからその翌日に散々愚痴を聞かされたっけな。」 めんどくさそうにヤスが言う。 「それは悪かったよ…。」 と言うかまた考えてた事読まれてるんだけど!? まぁ実際昨日寝られなかったのはそれが理由じゃない訳だが…。 思わず欠伸が出る。 「そこ!私語は慎むように!」 「はーい。」 「えー、私も現役の頃はそこに山があるからと各地を回ったものです。 山は良い。 自然を全身に感じながら登る開放感、そして登りきった時の達成感とそこから見る絶景は言葉で言い表せる物ではありません。 皆さんにも是非それを知ってもらいたい。 そもそも私がどうして山岳部に入ったのかと言うと、私の父親もまた大の登山好きだったからで…」 長い…。 あまりにも長過ぎたから、ここから先のセリフは耳にも頭にも入らなかったと言う事で割愛させてほしい。 そしてその長話が終わると、ようやくクラスごとにそれぞれのバスに乗り込んだ。
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