第二章

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降り終えると涼しげな川原の前に出る。 近くにはそこそこの広さのキャンプ場があり、夕食の食材を乗せた車が近くに何台か停めてあった。 「よーし、お前ら!ご苦労さん。 六時までは自由時間だ。 川で遊ぶなり、休憩するなり何ならまた山登りたい奴は登っても良いぞ!」 「誰が登るかよ!」 恐らく全員が思っているであろう気持ちを誰かが口にする。 「ちなみに勉強してくれても良いんだがな!」 「それはもっとやだ!」 本気かどうかは分からないけど冗談に聞こえないから悪意を感じるんだが…。 「自由時間かー。 どうするー?」 説明が終わると、小池さんが聞いてくる。 今の時間は四時過ぎ。 ゆっくりするには充分な時間だが、さて…どうするか。 「私、川原の方に行ってみたい!」 それに高橋さんが答える。 「そうね、ちょっとは涼めるかも。」 二人の行動は決まったらしく、とりあえず残ったヤスに目を向ける。 「ヤス、お前は?」 「俺は寝る。」 そう一言返すと、早速木陰に座って居眠りを始める。 相変わらずぶれない奴だ…。 なら俺は他の二人に付いていくかなと思い、とりあえず汗を拭おうとポケットに手を入れた。 (あ、あれ…?) そしてそこで異変に気付く。 「佐藤君、行かないの?」 そのまま立ち尽くしていると、気付いた高橋さんが聞いてきた。 「あ、うん。」 「なーにぼけっと固まってんのよ?また何かあった訳?」 それで気付いたらしい小池さんもめんどくさそうに聞いてくる。 「いや…。」 ポケットに入れていた筈のお気に入りのハンカチが無くなっていた。 多分どこかで落としたのだろう。 本来なら別に気にしなくても良いのかもしれない。 無いなら無いで、ただ新しいのを買えば良いだけの話だ。 ずっと捨てられなかったし、この機会に諦めてしまえば良いのだから。 でも、どうにもモヤモヤする。 頭でそう思っていても、探さないと言う選択肢を選べないのだ。 だってあれは…。 「ごめん、二人で行ってきなよ。 俺ちょっと用事が出来たから。」 少し悩んでから、そう言って断る。 「用事、ねぇ…。 まぁ、良いけど。 一応班長なんだからすぐ戻って来なさいよね。」 それに一瞬納得いかない、と言う表情を見せたものの、小池さんは無理に引き止める事はしなかった。 「一応かよ…。 へいへい。」 また登る訳だから一応お茶の入ったショルダーバッグだけを持って、足早に来た道を戻る。
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