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プロローグ
佐野政則は、物心ついた時には同性愛者の自覚があった。
小学三年生の時、同じクラスのB男君に初めて恋をしてからというもの、彼の人生は、自分の目移りする相手がみな男であり、性欲を湧きたてられるのも無論それであるという事を、嫌という程に知りつくしていく人生でしかなかった。
男に恋し、男に興奮し、男に落ちる。
そこまでは良かった。
何より、他人に好意を持つことは、佐野にとって自分の得意とする所でもあったからだ。
しかし、ーーしかしだ。
佐野には、生きてきて三十数年間、男と付き合った経験がまったくと言っていい程になかったのだ。
異性と出会う確率と、恋愛が可能な同性と出会う確率は雲泥の差である。だからこそ理由は、佐野自身がそれを能動的、そして積極的に求めていない部分が大半を占めていた。
ある時、よく知る常連のバーでそれを暴露すると、その店の毒舌ママに、口酸っぱくかつ熱心に、己の行動力のなさを指摘され、今、この現状に至ったのだ。
佐野は彼女の勧めで、ネットの掲示板というものを初めて閲覧する。
匿名さん『今から、◯◯駅付近で会える方いませんか? 』
匿名さん『いいよーん。ネコ? タチ? 』
匿名さん『バリネコです。ーーされたいです! 』
匿名さん『とりあえず、トイレで待ってて』
匿名さん『はーい、待ってまーす! 』
愕然とした。このような世界が広がっていたなんて、と。
しかし、佐野にゲイバーやハッテン場の壁は高すぎる。前者は佐野の性格上、萎縮して上手く会話が出来なそうだし、後者は最終手段でしかなかった。
そして散々悩んだ挙げ句、やはりあのママに背中を押されて、本日、勇気を振り絞って例の掲示板で呼びかけた。
匿名さん『二十一時くらいに、◯◯公園で会える方いませんか? 』
仕事終わって風呂入ったらこんなものだろうという時間を指定した。すると、すぐに返事が返って来る。
匿名さん『わかった行くね 』
匿名さん『あ、はい! 』
匿名さん『とりあえず、入り口から一番奥のベンチで』
匿名さん『了解! 待ってます』
(約束してしまった。こんなあっさりと……)
ここに来る前、緊張のあまり美容室にも行き、服さえ押入れの奥底に眠った普段は絶対着ないような皮のジャケットを羽織ってきた。
しかし誤算だった。
まさか、そんな小さな努力を軽々と超える好青年を釣り当ててしまうなんてーー。
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