第四章 乾いた亀裂

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第四章 乾いた亀裂

家庭がバラバラに崩れる音を意識した後も、圭介は積極的な歩み寄りを避け、学校で過ごす時間を長くした。時間に余裕が出来ると担任以外の用も次々増え、若い教師の相談役も頼まれた。断れない性分が便利屋になり、未処理の書類が机の上に山積みに溜まっていた。 「美登里は私立中学受験させるから、離婚はそれまでお預けね。それ位は協力してね。」 「何もやらなくていいと結婚を迫ったのはそっちだろう。生き方は急に変えられないよ。」 「どうせ変わらないから何も言わなかったのよ。私は教育一途な貴方が好きで結婚したし、生き生き活躍する場は学校しかないと分かっている。教育に専念させたいと建前では応援しても、本音は家庭に背を向け見向きもしない無関心さを許せない。貴方が表舞台で輝けば輝く程、にっちもさっちもいかなくなるの。生活を営むには毎日欠かせない仕事が山とあるのよ。でも、結婚時の約束だから、助けてとは口が裂けても言いたくない。長年黙って耐えている内に、貴方って本当は私を愛してない。自分しか愛せない。一緒に居るのは便利だからと気が付いた。それでも貴方の教師としての生き方を尊敬し、目も口も塞いで耐えた。無理して閉じると、心が乾いて酒で潤すしかなかった。呑めば満たされると量を増やしても空しいだけ。もう私は立派にアル中なのよ。昼間酒ビンを隠し、夜中にぐびぐび呑むだけが楽しみな依存症なの。それでも夫は知らん顔。そんな夫婦ってある?他人には立派な先生と称えられても、私には片輪者にしか見えない。独身で過ごすべき人だった。仕事にだけ没頭して生きるには、家族や家庭は邪魔なのよ。私は弱い人間だから、仕事オンリーな生き方は我慢できない。誤算だった。もう身も心もボロボロに壊れた。中学入学が終わったら、その後は自由になりましょう。」
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