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第六章 信奉者
佑大の小学校卒業から二年が過ぎ、尾山先生を囲む同窓会が集会所で開かれた。佐知子は尊敬する先生に会える興奮と、久しぶりに熱い教育論を聞ける期待からそわそわ落ち着かない。佑大が先生の指導通り逞しく育ち、部活でも活躍している報告を早くしたいと気が急いた。二年ぶりの先生は頬骨がこけ、白髪が目立ち老けた印象だった。が、声は張りがあり、得意の尾山節はさすがに、集まった母親を満足させ、賑やかな談笑に花が咲いた。
「麻生さん、ご主人はお家にいらっしゃいますか?ちょっと僕、お会いしたいんですが。」「勿論、喜びますわ。」急な申し出に戸惑い乍ら、名指しで尋ねてくれる扱いが嬉しかった。
「出来ればご主人と二人で話したいので。」
先生の希望で場所を換え、三十分後に出て来た夫は、佐知子を呼びそっと耳打ちをした。
「尾山先生って人間として信用して大丈夫かな。金を貸して欲しいそうだが、貴女が太鼓判押すなら貸してやってもいいのだが。」
意外な展開に言葉が詰まった。が、先生を心底尊敬している佐知子の答えは決まっていた。
「あんないい先生はいない。誠実で真面目で、とにかく子供を良くする為なら心血を注いでくれる。佑大が難しい時期を乗り越えたのも、尾山先生の指導のお陰よ。困っているなら貸してあげて。人物は私が保証するから・・」
「本当に大丈夫だな。信用していいんだな」
尻上がりの語尾が疑い深く何度も念を押した。
次の年の成人式は近年稀に見る大雪だった。
「おい!これ見ろ!これあの先生のことじゃぁないのか?こりゃぁ大変だよ。大事だ!」
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