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第二章 結婚の条件
圭介が由里と結婚したのは、付き合って十年目の春だった。教師を天職と信じ全力投球の最中に、家庭を築く決断は下せなかった。煮え切らない圭介に痺れを切らしたのは由里の方で、条件付きで結婚をねじ伏せられた。
「結婚しても家事も子育てもしなくていい。貴方は心置きなく教師の仕事に専念して構わない。でも、実家の庭に新居を建てる了承はしてね。共働きに両親の助けは必須だし、建築費は父が出してくれるから。私達ってこのチャンスを逃したら、やばいんじゃぁない。」
さすがに、もう少し待ってと延ばせなかった。
次の年に娘の美登里が生まれ、保育園の送迎から夕食作りや洗濯まで、地続きの両親の世話になった。妻がいて子がいて支援してくれる両親がいる。恵まれた生活だった。約束通り由里は愚痴一つ溢さず、圭介に何の分担も強要もせず、妻としても、母親としても、教師としても、完璧にこなし、万能スーパーウーマンだった。お陰で圭介は今迄以上に何の憂いもなく仕事に没頭し、満足だった。
家庭生活全般を丸投げし、教育しか脳がない身は肩身が狭かったが、敢えて変えなかった。教育に対し強い理念と情熱を持って教師になった以上、二股は掛けられない。頭は常に子供をどう導くかに心血を注ぎ、子供と一緒に成長する事が最大の喜びだった。同じ教師仲間と理想の教育論や役割を喧々諤々語り合う時は、興奮で体中の血が沸き上がる。保護者に対しても子供を育てる真剣な取り組みや、真摯な生き方を共感する時は、教師冥利に尽きて心から感動する。教育が国を良くする根源と確信し、教師同士や父母との連携が子供を挟み大事だと、口を酸っぱくして言い続けている。圭介は、特に地区懇談会の集会には力を入れていた。今回も大勢の保護者が、今悩んでいる問題を積極的に出し合い、本音で話し合う意義ある会になった。前向きな人が集まり建設的意見が飛び交うと、一気に熱が入る。一丸となって恥じも外聞も投げ捨て、子供の為に何が出来るか、必死で考え取り組んだ後の一体感は、至福を感じる時である。
代表の麻生佐知子に指名され、圭介は外で遊ぶ子供達の大切さについて熱弁を奮った。
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