第三章 尾山組の宝くじ当たった

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第三章 尾山組の宝くじ当たった

麻生佐知子は息子の佑大が五年生になり、積極的に尾山組のクラス委員を引き受けた。男の子は五年、六年が一番多感で難しい学年と聞き、息子の為に一肌脱ごうと意気込んでいた。四年間受け持たれた二人の女教師とは、相性が合わず問題児され、はみ出してばかり。親は子供の朝の目覚めや、登校する姿に一喜一憂する。段々やる気を無くし、しょぼくれる姿を見る程辛いことは無い。担任交代を切っ掛けに意欲と興味を持ち、真っ直ぐ伸びてくれたらどんな協力でも惜しまない。尾山級には可能な期待と直感があった。子供の目は先生の本質を即座に見破る。大人は口で誤魔化せても、子供は口の奥の心を読む力がある。自分達を大切に思っているか。一人一人に関心を持っているか。扱いが平等か。厳しく値踏みし判定する。いい先生と信じたら、心を全開放し、一直線にぶっつかっていく。親は子供の帰宅した顔付きで、一日楽しかったかどうかを即座に見抜く。予想通り、五年になって佑大は水を得た魚のように泳ぎだした。帰るなり、息を弾ませ学校の様子を話す声は、宝くじを当てたより嬉しい。先生の授業は教科書だけではなく、実際に目で見、手で触り、体験させる。準備に時間を掛け興味が出る工夫を凝らす。休日の校外活動も力を注ぎ、夏の花火大会、お化け屋敷大会、林間学校、オリエンテーリング、キャンプ、プール等、喜ぶ企画を次々考え出して実践する。月に一度、映画や演劇に連れて行く行事も恒例になった。親も先生の負担を減らす為に希望者を募り、代わり番こに校外活動に同行した。長期休みも日曜もなく生徒と過ごし、授業に遅れている子は放課後残して指導する。先生の熱心な姿勢に感化され、佐知子も他の小学校のPTAにも呼びかけ、教育地区懇談会を発足させた。続いて地元の子供会も組織した。バラバラだった新興住宅地に、保護者も先生も子供を芯にして手を繋ぎ、真剣に向き合い話し合う場が作られた。尾山先生の理念はクラスを畑に例え、よい土作りをしなければ個性が育たない。又、クラスだけでなく学校全体が良くなることが大事。更に住んでいる地域に根ざした活性化が非常に大きな力だと力説する。子供は家庭と学校と地域が一体となり取り組んでこそ、すくすく健康に成長する。
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