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圭介は妻の申し出に黙って頷いた。妻の言動が欝病も併発し、下手に逆らえば更に追い込む危険性を危惧した。そこまで追い詰めた怠慢と無責任さは自分にある。しかし、家事労働の負担を妻だけに押し付けたと、一方的に責められるのは異論があった。由里は確かに綺麗好きの働き者だが、潔癖症の完璧主義で、他人のやり方を黙認しない。洗濯の干し方、食器の洗い方、衣類の畳み方、掃除機の掛け方、何をしても文句を付け、気に食わなくて遣り直し、諍いをくり返した。どうせ二度手間なら遣らない方がましだと、関わらなくなった経緯は主張したい。娘に対しても、もう十歳なのに、一から十まで口煩く細々注意し、聞くのも嫌だった。大人には行儀良く手の掛からない良い子と褒められても、大声で笑ったり騒いだりする無邪気さに欠け、個性を摘んで無難な子供に育てた罪は大きい。圭介は私立中学受験も塾通いも反対した。小さい頃から塾やお稽古に通わせ、地域の友達と遊ばない子にしたくない。地元の公立校がいいと幾ら力説しても耳を貸さない。全て相談は母屋の親とし、圭介には事後報告だけ。つんぼ桟敷の身は、楽であったが不快でもあった。
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