バレンタインの甘い罠

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籍を入れて、最初の年越しをして少し経った頃だった。 公共の場はいつだって先取りで、ハロウィンが終わればすぐにクリスマスのディスプレイへと変わり、クリスマスが終わればお正月。 そして、正月が過ぎた今の様相といえば・・。 「ハートだらけだね、隆くん」 ショッピングモールを歩いていた千尋は、ハートでできたディスプレイの風船を見て、頬を緩めた。 愛らしいものを見れば、ほんわかと心は温まる。 色とりどりのハートは、千尋の心をがっちり掴んで心を温まらせた。 それは隣を歩いていた隆行も同じで、千尋の見ていた方を見やり、同じように頬を緩ませる。 ただし、隆行の頬を緩ませた対象はハートではなく千尋なのだが。 「そうだね」 同意の言葉に千尋は満足げに笑んで、隆行を見上げた。 「もうすぐバレンタインだからね」 けれど、続いた隆行の言葉に、千尋はまつげを揺らし何度か瞬く。 ―――……私、隆くんにチョコあげた事、…ないよ 去年は隆行から逃げていた。 その前は言わずもがな、隆行と懇意にしておらず、千尋が毎年チョコをあげていたのは、父親と智樹と由紀と瞳子。 大学時代はお世話になった教授達にもあげていた。 ―――……そっかぁ、初めてなんだ 不思議と高揚感が増し、ふふ、と笑みがこぼれる。 「隆くんはチョコ好き?」 「好きだよ」 「甘いのも平気?」 「ちーがくれるものなら、何でも好きだよ」 しっとりとした眼差しでそれを言うものだから、千尋の心拍数はぐっと上がる。 「な、なら良かった。えっと、今年は五つ作ればいいから、ちょっと手の込んだものができるよ」 隆行と智樹と父親。あとの二つは瞳子と由紀。 指折り数える千尋を見下ろし、隆行は目を眇めた。
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