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細められる目の穏やかさに、庸介はほっと安らぎを覚える。
庸介の席に味噌汁、大盛りのご飯、漬けもの、日替わりの小鉢をふたつと香ばしく焼かれたサバが並べられると「どうぞ食べて」と、その微笑のままで勧めてくれた。
昨夜、ホテルの前に寄った中華料理屋からなにも食べていない庸介は空腹で、言葉に甘えて箸を手にした。
「じゃあ、いただきます」
「この近くに住んでるのかな」
庸介は頷く。柾貴の事務所そばのマンションだと答えたかったが、大衆食堂で組の話はしづらい。
「そうなんだね。じゃあ、ご近所さんだ。僕の部屋も近くにあるんだよ。お店にはお散歩みたいに歩いていける距離なんだ」
「いまから出勤……?」
「ううん、いったん家に帰って、夕方までゆっくりしてる。今日は朝から神田の古書店街に出かけててその帰り。読書が趣味だから、一日じゅう古本屋さんをハシゴしちゃうときもあって……」
綾世はトートバッグから、文庫本を取りだしてパラパラと捲った。その爪は短く切りそろえられていて、整えられている。
「今日の戦利品」
嬉しそうに笑んでから、すぐに本をしまう。
カバンにはほかにも何冊か本が入っているのが、庸介からちらりと見えた。
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