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 男子高校生としては色白の肌に、紅の花びらが残酷な程に美しく映えている。  すぐに制服のスラックスを履いて隠す。  腕まくりして着る長袖のワイシャツを身に纏い、紺色のスクールバッグを肩にかければ、一応は、何処にでもいる少年になれた。  ほんとうは夏服を着たいが、日焼けをするなとうるさい。  黒髪なのも『指定』されているからだ。  庸介だって年頃ごろの少年らしく、クラスメイトみたいに染めてみたいと思っている。  無理だ。年相応に過ごすことも、ふつうの人生を送ることも。  庸介は諦めて受け入れてしまった。  つらいと感じた数多の夜があるいっぽうで、感謝も覚えている。 『囚われの身』にならなかったら天涯孤独の庸介は、学校すら通えていなかったかもしれない。  弓道着を詰めたスポーツバッグも持ち、部室を出る。  サッカー部と陸上部が校庭を区切り、声を出して駆けまわっていた。  彼らの青春を通り過ぎて夕暮れの街並みをしばらく歩く。  迎えの車は校舎からすこし離れたところに寄越されている。  表通りから奥に入ったひと気のない路地に、黒塗りのメルセデス・ベンツが佇み、庸介が近づくと自動的に後部座席の扉が開いた。  運転手の男と、助手席の男が声を揃える。 「お疲れさまです、庸介さん」     
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