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マクドナルドの店内に入っていく。それほど混んではいない列に並び、ほどなくして綾世たちの番が来ると、庸介はベーコンレタスバーガーとポテトとブラックコーヒーのセットに、チキンフィレオとチーズバーガーを追加する。ポテトはLサイズだった。
(さすが、部活終わりなだけあって食べっぷりがいいな。きっと、この年頃の男の子ってただでさえ食欲旺盛なんだろうな……いつも無糖のコーヒーなのは歳よりも大人っぽい気がする)
自分が庸介くらいの歳のときはどうだったんだろう……、とも思った。
綾世は今年二十四になるらしいので、七、八年ほど前のころだ。
当然というのか、記憶を辿っても二年より昔はなにも思いだせないから、ちょっと悲しい。
いまの綾世にとって最初の記憶は、運びこまれた病室で目覚めた瞬間でしかない。
勝手に暗い気分になってしまったことを庸介に気遣われたくないから、バレないように、朗らかな表情を意識して綾世も注文した。
綾世が頼んだのは、フィレオフィッシュとサラダとシェイク。
「……いっつも思うけど、そんなんで足りるのかよ」
奥まった席に着くと、庸介からの指摘はそれだった。
憂鬱な心境には気づかれていないようで、ほっとする。
「これから働くのに、少なくねぇ」
「そうかなぁ。うーん、肉体労働じゃないからか、それほどお腹は空かないけどね」
経営する店のようすを見に行ったり、上客に挨拶をするのが、綾世の夜のルーチンワークだ。
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