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 すぐに昇りきり、迎えられる店の入り口は庸介が想像していたよりもずっとシンプルなつくりだ。金色の手すりを押して真っ黒な扉を開いた。  瞬間、ビルの入り口での歓迎と同様に、店内からの視線もざわっと刺さって、あまり快くはない。開店前だから客の姿はなく、スマホをいじったり営業電話をしている男ばかりだ。  まとわりつく視線を気にしないように意識して入り、絨毯を踏んで歩く。  こういった場所ははじめてではないから、シャンデリアにも、店名の『Vent Fleur(ヴァンフルール)』と印字された水槽も、しつらえられた何対ものソファと角卓にも特別な物珍しさは感じなかった。  すでに話を通されているらしく、従業員のひとり、赤く染めた髪をワックスで遊ばせた男が案内してくれるものの、やはり興味津々といった態度だから庸介の気に障る。 「ねぇ、きみ、若頭のなんなの? 弟にしては似てないっすよねぇ?」 「…………」  答えたくないから、答えない。  苦笑されたが、それ以上無理には聞かれなかった。  擦りガラスの扉の向こうはVIPルームで、従業員はノックだけして去っていく。  ひとりで中に入ると、室内は一般の客席よりもさらに煌びやかな明かりで満たされ、大きなスクリーンとカラオケの機器がある。その他の調度品からも重厚さと高級感が溢れる。     
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