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「酒臭せぇ……」
柾貴は気にするはずもなく、豪快に笑った。
「学校はどうだったんだ」
「べつにふつうだ、いつもと変わらない」
柾貴を振りほどきつつ、庸介はオーナーをちらと見た。
すると彼はテーブルにあった革張りの表紙のメニューを開き、ソフトドリンクのページを庸介に向けてくれる。
「庸介くんっていうんだね。なに飲む?」
答えるのは、庸介ではなく柾貴だった。
「こいつは水でいい、水で。甘やかすな」
「そんな、僕は甘やかそうとしたわけじゃ……ほんとうに水でいいの?」
庸介は頷いた。いつだって柾貴の意向が全てだ。
若きオーナーは不服そうな顔をしながらも空のグラスを取った。
水割りを作るような要領で、目の前で氷を落としてミネラルウォーターを注ぐ。
手つきは品があり綺麗だったから、庸介はほんのすこしだけ見とれる。
かき混ぜたマドラーを離すと、庸介の前にコースターとグラスを置いてくれた。
「どうぞ、庸介くん」
また微笑まれた。
庸介は頭を下げ、グラスに口をつける。冷たくて美味しい。
柾貴はなぜだか肩をすくめる。
「『僕』か、マジで調子抜けするぜ、いまのお前と話してるとな──」
鼻で笑ってから、庸介に教えてくれた。
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