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「こいつは綾世(あやせ)ってんだが、二年前に記憶無くしちまってな、それを機にすっかり人格変わっちまった。昔は、歌舞伎町の王様って呼ばれて、破天荒なヤロウで面白かったんだけどよ」
「何度言われてもお恥ずかしいです、王様だなんて……」
アヤセと呼ばれた男はぶんぶんと顔を横に振る。マロンブラウンの髪も揺れた。
柾貴はただ呆れを示し、わざとらしくため息も零す。
「すっかり牙が抜けちまったぜ」
(記憶喪失……? なにかあったのか?)
疑問を覚える庸介だったが、柾貴と綾世がビジネスの話を再開したので質問せず、ただふたりの会話を聞いていた。
綾世の経営する『ヴァンフルール・グループ』が次にオープンさせるのはいままでのようにホストクラブではなく、だれでも気軽に利用できるカフェを計画しているとのこと。
この店と同様に柾貴のナワバリで営業し、柾貴が後ろ盾につく。
上納金(みかじめ)を収めるかわりに、トラブルがあれば柾の所属する荒田(あらた)組が解決してくれる。
話を耳にするなかで庸介が理解したのは、綾世は記憶を失ってからはプレーヤーとしては一線を退き、経営に専念しているということだ。
仕事の話だけなく柾貴の所属する組の情勢についても語られた。
「恥ずかしい話だが、内輪揉めはまだ収まってねぇ。だがまぁ、お前んところに迷惑かかるこたぁねぇだろう」
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