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 弦を引き、矢を放つ。  ここからは小指の爪の先ほどの大きさにしか見えない的に吸いこまれ、見事的中する。  見ていた部員たちはわぁっと歓声を上げた。  今日も庸介(ようすけ)は一射も外さないからだ。  当の庸介は周りのにぎやかさを気に留めず、切れ長の瞳で弓道場の時計をちらと見る。  部活を早上がりする旨は、すでに部長と顧問には伝えてある。  帰り支度に取りかかろうとしたとき、後輩の女子部員たちに話しかけられた。 「成田(なりた)先輩、教えてほしいことがあるんですけど……」  彼女たちはこの春に入部したばかりで、まだまだ初々しい。   庸介は冷めた表情で通り過ぎる。 「悪い、今日はもう上がる」  雑に断ってしまったなと、弓道場を出てから思った。  しかし、そっけない態度のほうがいいかもしれない。  庸介は苦笑する。 (俺とはあんまり……関わるな)  自分のためにも、彼女たちのためにも。  ひとりきりの更衣室、弓道具を置き、窓から差しこむ斜陽を浴びながら袴を脱ぐ。  人目がないと堂々と着替えられて楽だ。  ――庸介の左腿には、曼珠沙華の刺青が入れられていた  それほど大きなサイズではないが、ボクサーパンツからはみ出してしまう。     
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