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 ホストとしては全くと言っていいほど芽が出なかったが、パティシエとしては腕を上げてきている。凌は銀色のお盆に乗った杏のタルトとブラックコーヒーを受け取った。 「ありがとう、運ぶね」  窓際のその席に向かう。  さきほど店に来た黒髪の高校生がノートを広げ、問題集を解きはじめている。  今日は放課後にそのままやってきたので、学ラン姿だった。 「はかどってる、庸介くん?」  庸介は切れ長の瞳で、凌をちらと見てきた。 「そこそこ」 「僕、もうすぐ上がるから、待っててね」 「食べ終わるまで、上がらなくていい」 「あと二十分くらいかな?」 「じゃあ、ちょうどいいな」  庸介は微笑う。  ふだんはクールな雰囲気もただよう少年だが、表情をゆるめると、あどけなさが滲む。 「凌さんが働いてるところ見てんのも好きだから、急がなくても大丈夫だ」 「ふふ、ありがとう……って、僕を見てないでちゃんと勉強しなきゃだめだよ」 「分かってる」  軽く手をあわせてから、さっそくタルトにフォークを刺す庸介は、あまり分かっていなさそうだった。大学入試を控えているのだから、もっとちゃんと勉強をさせたい。 (家に帰ったら、みっちり家庭教師しないといけないな……!)  意気込みとともに凌は踵を返す。  キッチンに戻ると、壁の鏡に映るのは、黒目がちな奥二重の瞳。  これといって特徴のない、するんとした鼻に、薄いくちびる。     
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