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この夏、ある事件が日本列島を震撼させた。
人気アイドルM、失踪。
今をときめくアイドルが音信不通、行方不明になるというセンセーショナルなこの事件は、連日テレビのニュースをにぎわせ、ネット上でも様々な憶測を呼んだ。
Mは、関西で結成された男性五人組アイドルのメンバーで二十歳。もともとご当地アイドルとして地道に活動していたのだが、徐々に全国区の人気になり、結成五年目の今年、ベストアルバム発売、初全国ツアーが行われるなど、飛ぶ鳥を落とす勢いであった。
そんな中、ツアー東京公演夜の部の後、Mは突如として姿を消した。
連絡がとれず、家にも帰っておらず、翌日の生放送の現場にも姿を見せなかった。
Mの失踪を公にするか否か事務所は決めかねていたが、マスコミの追求やSNSの炎上が相次いだため、Mの家族に確認した後、公表、警察への捜査依頼に踏み切った。
Mは明るく真面目、ファンからもスタッフからも評判はよく、グループのメンバーからも信頼は厚く、センターポジションを任されるなど中心的存在だった。
その日も、特に変わったところも無く公演に参加しており、彼が自ら失踪する理由に、周囲の人々はまるで心当たりが無かった。
ではなぜ、Mはいなくなってしまったのか。
誘拐か、事故か。何かの事件に巻き込まれたのではないか。
Mは無事なのか。
捜査は目立った進捗を見せず、ファンの阿鼻叫喚が連日過剰に報道される中、この「人気アイドル失踪事件」は意外な結末を迎える。
十日後、Mが帰還したのである。
直後の健康診断では、若干の疲労感は見られたものの、特に目立った外傷や体調不良は見られなかった。
そして、さらなる憶測を呼ぶことになったのは、帰還後にMが空白の十日間について語ることを頑なに拒んだからである。
よほどの恐怖体験をしたのだろうと同情する意見が多数な中、真相を語ろうとしないMへの不信感からか、「自作自演だったのでは?」と話題づくりを疑う声まで浮上してきた。
報道が過熱する最中、Mが帰還した翌日、さらに事件は急展開する。
「私がアイドルMを誘拐、監禁した犯人です」と、Sという一人の女が自首してきたのである。
その女は、都内に住む三十代のOLで、デビュー当時からのMのファンだったと言う。
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